2019年4月から「入国管理局」が「出入国在留管理庁」に格上げされると同時に、新しい在留資格「特定技能」が新設されます。
この特定技能は、特定の産業分野について、通常の「就労ビザ」では認められていなかった、外国人の単純労働が認められています。
この特定の産業分野に、「漁業」が含まれています。
そこで、今回は「漁業分野」における外国人の「特定技能」ビザについて考えていきます。
皆様の参考になれば幸いです。
「特定技能」ビザ全般については、以下の記事で詳しく解説をしています。↓
・外国人の「特定技能」の在留資格について徹底解説します!
漁業分野分野で「特定技能」の外国人を受け入れる目的
漁業分野で「特定技能」の在留資格によって外国人を受け入れる目的・趣旨は、
「漁業分野において深刻化する人手不足に対応するため、専門性・技能を生かした 業務に即戦力として従事する外国人を受け入れることで、漁業野の存続・発展を図り、もって日本の経済・社会基盤の持続可能性を維持する。」
ことが目的とされています。
漁業分野は人手不足
漁業の業務に従事することができる「特定技能」ビザで外国人を受け入れる一つの理由として、漁業分野の人手不足をあげることができます。
全国の半島地域や離島地域等津々浦々に6,298(2013 年)の漁業集落が存在し、 生活の糧として漁業や養殖業が営まれていますが、漁業分野における就業者は、平成 10年に27 万 7,000 人であったものが平成29 年には 15 万 3,000 人とおおむね半減しています。
また、雇われ就業者も3年間で約1割減少しているほかに、漁業分野の有効求人倍率は、漁船員 2.52 倍(船員職業安定年報)、水産養殖作業員 2.08 倍(職業安定業務統計)とな っているなど、深刻な人手不足の状況にあるということが見て取れます。
漁業分野では様々な取り組みも行われている
漁業分野では、人手不足の解消のために様々な取り組みが行われています。
①生産性向上のための取組
農林水産省では、補助事業等により業界の取組を支援するとともに、生産性向上 のための取組として
・新たな揚網システムやフィッシュポンプの導入等生産性の高い漁船の導入
・海洋観測ブイや衛星情報の活用による海洋環境の迅速な把握
・AIを活用した漁場形成予測による漁場探査の効率化等、最先端技術の開発、実装
・「浜」単位での先進的な取組事例の全国普及
・自動給餌機や自動カキ剥き機の導入等による作業の効率化等を推進し、省力化による生産性の向上
などに取り組んでいます。
②国内人材確保のための取組
国内人材の確保についても、沿岸漁業や養殖業を中心に女性・高齢者等の多様な国内人材の活用が進むとともに、農林水産省では、
・漁業就業相談会や漁業体験
・長期研修
・次世代人材投資
・経営技術向上支援
などの取り組みを行なっています。
<参照:農林水産省 女性農林漁業者向け「支援策活用ガイドブック」>
上記のような取り組みを行い、それでも人手不足が深刻なために、「特定技能」ビザで外国人を受け入れることで、人手不足の解消をしていこうと考えられています。
外国人の受け入れ見込み数は?
漁業分野における向こう5年間の受入れ見込数は、最大 9,000 人であり、これを 向こう5年間の受入れの上限として運用されることになります。
この受け入れ数の根拠は、
「向こう5年間で2万人程度の人手不足が見込まれる中、今回の受入れは、毎年1 %程度(5年間で 4,000 人程度)の労働効率化及び追加的な国内人材の確保(5年 間で 7,000 人程度)を行ってもなお、不足すると見込まれる数を上限として受け入 れるものであり、過大な受入れ数とはなっていない。」
というところからきています。
特定技能1号(漁業分野)のポイント
漁業分野において「特定技能1号」ビザを考えるにあたり知っておきたいポイントを以下に解説をしていきます。
また、現在漁業分野の「特定技能」ビザについては、「特定技能2号」は認められていません。
そのため、今後、漁業分野が「特定技能2号」の対象になれば、在留期限に上限がなくなりますので、長期で雇用することも可能になると考えられます。
技能水準及び評価方法等
「特定技能1号」ビザを取得するためには、「漁業技能測定試験(仮称)(漁業)」又は「漁業技能測定試験(仮称)(養殖業)」に合格をする必要があります。
「特定技能評価試験」に全般については、以下の記事で詳しく解説をしています。↓
・特定技能評価試験に求められる試験水準等を解説!
①漁業技能測定試験(仮称)(漁業)
この試験は、
漁業における一定程度の業務について、監督者の指示を理解し的確に遂行できる能力又は自らの判断により遂行できる能力を測り、漁具の製作・ 補修、水産動植物の探索、漁具・漁労機械の操作、水産動植物の採捕、漁獲物の処理・保蔵、安全衛生の確保等を行うことができるレベルであることを認定する試験です。
この試験に合格することによって、一 定の専門性・技能を用いて即戦力として稼働するために必要な知識や経験を有するものと認められます。
評価方法
試験言語:日本語(ひらがな、カタカナ又はふりがなを付した漢字)
実施主体:平成 31 年度一般予算成立後に公募により選定した民間事業者
実施方法:① 筆記試験(真偽式又は多肢選択式) ② 実技試験(写真又はイラスト等を用いて実務能力を測るもの)
①、②とも、コンピューター・ベースド・テスティング(C BT)方式の採用可 注2)
漁業に3年以上従事した経験を有する者は②を免除
実施回数:年最大3回程度、国外実施を予定。また、国内でも実施予定。
開始時期:平成 31 年度内予定
とされています。
②漁業技能測定試験(仮称)(養殖業)
この試験は、
養殖業における一定程度の業務について、監督者の指示を理解し的確に遂行できる能力又は自らの判断により遂行できる能力を測り、養殖資材の 製作・補修・管理、養殖水産動植物の育成管理、養殖水産動植物の収獲(穫)・処 理、安全衛生の確保等を行うことができるレベルであることを認定する試験です。
この試験に合格することによって、一定の専門性・技能を用いて即戦力として稼働するために必要な知識や経験を有するものと認められます。
評価方法
試験言語:日本語(ひらがな、カタカナ又はふりがなを付した漢字)
実施主体:平成 31 年度一般予算成立後に公募により選定した民間事業者
実施方法:① 筆記試験(真偽式又は多肢選択式) ② 実技試験(写真又はイラスト等を用いて実務能力を測るもの)
①、②とも、コンピューター・ベースド・テスティング(C BT)方式の採用可 注2)
漁業に3年以上従事した経験を有する者は②を免除
実施回数:年最大3回程度、国外実施を予定。また、国内でも実施予定。
開始時期:平成 31 年度内予定
とされています。
国内試験を受験できない人
国内で試験を実施する場合、
1、退学・除籍処分となった留学生
2、失踪した技能 実習生
3、在留資格「特定活動(難民認定申請)」により在留する者
4、在留資格「技能実習」による実習中の者
上記外国人は、在留資格の性格上、当該試験の受験資格を認めないとされています。
日本語能力水準及び評価方法等
「特定技能1号」ビザを取得する外国人には、ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力を有するものことが求められますので、以下の試験の合格等が必要になります。
①日本語能力判定テスト(仮称)
この試験に合格することによって、ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力を有するものと認められることから、基本的な日本語能力水準を有するものと評価されます。
評価方法
実施主体:独立行政法人国際交流基金
実施方法:コンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式
実施回数:年おおむね6回程度、国外実施を予定
開始時期:平成 31 年秋以降に活用予定
とされています。
②日本語能力試験(N4以上)
この試験に合格することによって、「基本的な日本語を理解することができる」 と認定されますので、ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程 度の能力を有するものと認められ、本制度での受入れに必要となる基本的な日本語能力水準を有するものと評価されます。
評価方法
日本語能力試験は、
実施主体:独立行政法人国際交流基金及び日本国際教育支援協会
実施方法:マークシート方式
実施回数:国内外で実施。国外では 80 か国・地域・239 都市で年おおむね1回 から2回実施(平成 29 年度)
とされています。
日本語能力試験N4については以下の記事で解説をしています。↓
・特定技能ビザに必要な「日本語能力試験N4」とは?
技能実習を修了した外国人も特定技能に移行できる
漁業分野に関連する第2号技能実習を修了した外国人は、各業務における「特定技能1号」に移行することができます。
業務内容と技能実習2号移行対象職種において修得する技能との具体的な関連性について
業務内容との関連性にいては、
漁船漁業に関連する第2号技能実習(漁船漁業職種8作業:かつお一本釣り漁業、延縄漁業、いか釣り漁業、まき網漁業、ひき網漁業、刺し網漁業、定置網漁業、かに・えびかご漁業)を修了した者については、当該技能実習で修得した技能が、魚群 を探し、適切な漁具・漁労機械を選択して、水産動植物を採捕し、その鮮度を保持 するために用いられるという点で、「1号特定技能外国人」が従事する業務で要する技 能の根幹となる部分に関連性が認められることになります。
また、
養殖業に関連する第2号技能実習(養殖業職種1作業:ほたてがい・まがき養殖作業)を修了した者については、技能実習で修得した技能が、適切な養殖資材を選択して、水産動植物を養殖し、収獲(穫)するために用いられるという点で、「1号特定技能外国人」が従事する業務で要する技能の根幹となる部分に関連性が認められることになります。
「技能実習制度」については、以下の記事で詳しく解説をしています。↓
・技能実習生って何?外国人の技能実習制度について徹底解説!
漁業分野の特定技能ビザの業務内容は?
漁業分野において受け入れる「1号特定技能外国人」が従事することができる業務は、
上述した試験に応じて従事することができます。
漁業技能測定試験(仮称)(漁業)
漁業(漁具の製作・補修、水産動植物の探索、漁具・漁労機械の操作、水産動植物の採捕、漁獲物の処理・保蔵、安全衛生の確保等)の業務に従事することができます。
また、当該業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務(例:漁業に係る漁具の積込み・積下し、漁獲物の水揚げ、漁労機械の点検、船体の補修及 び自家原料を使用した製造・加工・出荷・販売等)に付随的に従事することは差し支えないとされています。
漁業技能測定試験(仮称)(養殖業)
養殖業(養殖資材の製作・補修・管理、養殖水産動植物の育成管理、養殖水産 動植物の収獲(穫)・処理、安全衛生の確保等)の業務に従事することができます。
また、当該業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務(例:養殖業に係る梱包・出荷及び自 家原料を使用した製造・加工・出荷・販売等)に付随的に従事することは差し支えないとされています。
漁業分野の対象
ここでいう漁業分野の対象は、「日本標準産業分類」に該当する事業者が行う業務となっています。
「日本標準産業分類」では、
03 漁業(水産養殖業を除く)
04 水産養殖業
が該当します。
参照:日本標準産業分類
外国人を雇用する会社(特定技能所属機関)に必要なこと
1、労働者派遣形態(船員派遣形態を含む)の場合、特定技能所属機関となる労働者派遣事業者(船員派遣事業者を含む。)は、地方公共団体又は漁業協同組合、漁業生産組合若しくは漁業協同組合連合会その他漁業に関連する業務を行っている者が関与するものに限ること。
2、「漁業特定技能協議会(仮称)」 の構成員になること。
3、漁業特定技能協議会において協議が調った措置を講じること。
4、特定技能所属機関及び派遣先事業者は、漁業特定技能協議会及びその構成員に対し、必要な協力を行うこと。
5、漁業分野の外国人を受け入れる特定技能所属機関が登録支援機関に支援計画の全部又は一部の実施を委託するに当たっては、漁業分野に固有の基準に適合している登録支援機関に限ること。
上記の事項について「特定技能所属機関」に条件が課されます。
ただし、特定技能外国人を受け入れていない場合は、特定技能外国人を受け入れた日から4ヶ月以内に協議会の構成員になることが求められます。
漁業特定技能協議会については、以下の記事で詳しく解説をしています。↓
・漁業特定技能協議会についてわかりやすく解説!
外国人の雇用形態について
漁業分野における「特定技能」ビザの場合、「直接雇用」・「派遣形態での雇用」どちらも可能になります。
つまり、
・漁業分野の事業者を特定技能所属機関とする直接雇用形態
・労働者派遣事業者を特定技能所属機関として外国人材を漁業分野の事業者に派遣する労働者派遣形態
いずれでも可能であるということです。
労働者派遣形態により受け入れる必要性について
労働者派遣形態によって外国人を受け入れる必要性については、
漁業分野は
・同じ地域であっても、対象魚種や漁法等によって繁忙期・ 閑散期の時期が異なること
・漁業分野の事業者の多くが零細で半島地域や離島地域等に存在していること等の特性があり、地域内における業務の繁閑を踏まえた労働力の融通、雇用・支援の一元化といった漁業現場のニーズに対応する必要があること。
などによって、
漁業分野の事業者による直接雇用形態に加えて、労働者派遣形態により「1号特定技能外国人」を受け入れることが 不可欠であると考えられているからです。
まとめ
今回は、「漁業分野」における「特定技能」ビザについて考えてきました。
「特定技能」ビザを取得することで、通常の就労ビザでは認められていなかった外国人の単純労働が認められるようになります。
そのため、「特定技能」ビザの外国人を雇用する雇用主にも様々な条件が課されることになりますので、慎重に検討してから雇用するかどうかを考えていく必要があります。
今回の記事が皆様の参考になれば幸いです。
「特定技能」ビザについて解説した記事一覧は、以下の記事にまとめています。↓
・特定技能の在留資格について解説した記事一覧(まとめ)