2019年4月から「特定技能」の在留資格が新設されます。
この「特定技能」ビザは「特定産業分野」で就労を行う場合に取得できる在留資格となります。
「特定技能」ビザを取得することによって、通常の就労ビザでは認められていなかった、外国人の単純労働も認められることになります。
この「特定産業分野」に農業分野が含まれています。
そこで、今回は農業分野における「特定技能」ビザについて考えていきます。
皆様の参考になれば幸いです。
「特定技能」ビザ全般については、以下の記事で詳しく解説をしています。↓
・外国人の「特定技能」の在留資格について徹底解説します!
農業分野で「特定技能」の外国人を受け入れる目的
農業分野で「特定技能」の在留資格によって外国人を受け入れる目的・趣旨は、
「農業分野において深刻化する人手不足に対応するため、専門性・技能を生かした 業務に即戦力として従事する外国人を受け入れることで、農業分野の存続・発展を図り、もって我が国の経済・社会基盤の持続可能性を維持する。」
ことが目的とされています。
農業分野は人手不足
農業の業務に従事することができる「特定技能」ビザで外国人を受け入れる一つの理由として、農業分野の人手不足をあげることができます。
農業分野の雇用労働力は、平成17年に13万人であったものが、平成27年には22万人と、この10年で1.7倍に増加しており、平成29年の農業分野の有効求人 倍率は1.94倍(農耕作業員1.71倍、養畜作業員2.80倍)となっています。
また、「新たな外国人材の受入れ制度に関する基本的考え方(平成30年9月農業労働力支援協議 会)」では、雇用就農者数は現時点で約7万人不足しているとされているなど、 深刻な人手不足の状況になっています。
<参照:農業労働力支援協議会 新たな外国人材の受入れ制度に関する基本的考え方の公表について>
さらに、農業就業者の世代間のバランスについても、現時点において、基幹的農業従事者の68%が65歳以上で、49歳以下は11%となっています。
一方、農業就業者の減少・高齢化を背景として経営規模の拡大や雇用労働力の増加が進展していること考えると、今後も農業分野で必要となる雇用労働力は増加するものと考えられています。
<参照:農林水産省 スマート農業の展開について>
また、農村地域の高齢化率は都市部を上回るペースで推移しているという現状があり、今後も農村地域では全国を超える減少率で 人口が推移すると見込まれています。
農業分野では様々な取り組みも行われている
農業分野の産業では、人手不足の解消のために様々な取り組みが行われています。
①生産性向上のための取組
例えば、
農林水産省では、「農地中間管理機構等を通じた農業の担い手への農地の集積・集 約化」、「ロボット技術、ICT等の先端技術の活用によるスマート農業の実現」等を推進し、省力化による生産性の向上に取り組んでいます。
<参照:農林水産省 スマート農業の展開について>
②国内人材確保のための取組
国内人材の確保についても
・新規就農者に対する資金の交付や無利子融資による支援
・女性の活躍支援や農福連携の推進等により、若者・女性・高齢者等の多様な国内人材の確保
などの取り組みに努めています。
上記のような取り組みを行い、それでも人手不足が深刻なために、「特定技能」ビザで外国人を受け入れることで、人手不足の解消をしていこうと考えられています。
外国人の受け入れ見込み数は?
農業分野における向こう5年間の受入れ見込数は、最大3万6,500人とされています。
これを向こう5年間の受入れの上限として運用されます。
この受け入れ数の根拠は、
「向こう5年間で13万人程度の人手不足が見込まれる中、今回の受入れは、年1% 程度の必要労働者数の効率化(5年で1万1,000人程度)及び追加的な国内人材の確保(2023年までに40歳代以下の農業従事者を8万人程度確保)を行ってもなお不足すると見込まれる数を上限として受け入れるものであり、過大な受入れ数とはなっ ていない。」
というところからきています。
特定技能1号(農業分野)のポイント
農業分野において「特定技能1号」ビザを考えるにあたり知っておきたいポイントを以下に解説をしていきます。
また、現在農業分野の「特定技能」ビザについては、「特定技能2号」は認められていません。
そのため、今後、農業分野が「特定技能2号」の対象になれば、在留期限に上限がなくなりますので、長期で雇用することも可能になると考えられます。
技能水準及び評価方法等
「特定技能1号」ビザを取得するためには、「農業技能測定試験(仮称)(耕種農業全般)」又は、「農業技能測定試験(仮称)(畜産農業全般)」に合格をする必要があります。
「特定技能評価試験」に全般については、以下の記事で詳しく解説をしています。↓
・特定技能評価試験に求められる試験水準等を解説!
①農業技能測定試験(仮称)(耕種農業全般)
この試験は、
①栽培管理、安全衛生等について基本的な知識を有しており、ま た、各種農作業について、安全の確保を図りつつ、一定時間内に正しい手順で確実にできるレベルであること。
②日本語で指示された農作業の内容等を聴き取り、 理解できること
上記2点を認定するための試験です。
試験に合格することによって、「耕種農業全般(栽培管理、農産物の集出荷・選別等)」において、一定の専門性・技能を用いて即戦力として稼働するために必要な知識や経験を有するものと認められます。
評価方法
試験言語:現地語(上記②に係る試験については日本語)
実施主体:平成31年度一般予算成立後に公募により選定した民間事業者
実施方法:コンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式
実施回数:年おおむね2回から6回程度、国外実施を予定。また、国内でも随時実施予定。
開始時期:平成31年内予定
とされています。
②農業技能測定試験(仮称)(畜産農業全般)
この試験は、
①飼養管理、安全衛生等について基本的な知識を有しており、ま た、各種農作業について、安全の確保を図りつつ、一定時間内に正しい手順で確実にできるレベルであること
②日本語で指示された農作業の内容等を聴き取り、 理解できること
上記2点を認定するための試験です。
試験に合格することによって、「畜産農業全般(飼養管理、畜産物の集出荷・選別等)」において、一定の専門性・技能を用いて即戦力として稼働するため に必要な知識や経験を有するものと認めれます。
評価方法
試験言語:現地語(上記②に係る試験については日本語)
実施主体:平成31年度一般予算成立後に公募により選定した民間事業者
実施方法:コンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式
実施回数:年おおむね2回から6回程度、国外実施を予定。また、国内でも随時実施予定。
開始時期:平成31年内予定
とされています。
日本語能力水準及び評価方法等
「特定技能1号」ビザを取得する外国人には、ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力を有するものことが求められますので、以下の試験の合格等が必要になります。
①日本語能力判定テスト(仮称)
この試験に合格することによって、ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力を有するものと認められることから、基本的な日本語能力水準を有するものと評価されます。
評価方法について
実施主体:独立行政法人国際交流基金
実施方法:コンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式
実施回数:年おおむね6回程度、国外実施を予定
開始時期:平成31年秋以降に活用予定
②日本語能力試験(N4以上)
この試験に合格することによって、「基本的な日本語を理解することができる」 と認定されますので、ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程 度の能力を有するものと認められ、本制度での受入れに必要となる基本的な日本語能力水準を有するものと評価されます。
実施主体:独立行政法人国際交流基金及び日本国際教育支援協会
実施方法:マークシート方式
実施回数:国内外で実施。国外では80か国・地域・239都市で年おおむね1回か ら2回実施(平成29年度)
日本語能力試験N4については以下の記事で解説をしています。↓
・特定技能ビザに必要な「日本語能力試験N4」とは?
技能実習を修了した外国人も特定技能に移行できる
耕種農業に関連する第2号技能実習(耕種農業職種3作業:施設園芸、畑作・野 菜又は果樹)を修了した外国人や、畜産農業に関連する第2号技能実習(畜産農業職種3作業:養豚、養鶏又は酪農) を修了した外国人は、各業務における「特定技能1号」に移行することができます。
「技能実習制度」については、以下の記事で詳しく解説をしています。↓
・技能実習生って何?外国人の技能実習制度について徹底解説!
農業分野の特定技能ビザの業務内容は?
農業分野において受け入れる「1号特定技能外国人」が従事することができる業務は、
上述した試験に合格した区分に応じて就業が可能になります。
例えば、
・耕種農業:耕種農業における栽培管理、農産物の集出荷・選別など
・畜産農業:畜産農業における飼養管理、畜産物の集出荷・選別など
に従事することになります。
また、上記業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務(例:農畜産物の製造・加工、運搬、販売の作業、冬場の除雪作業等)に付随的に従事するこ とは差し支えないとされています。
農業分野の対象
ここでいう農業分野の対象は、「日本標準産業分類」に該当する事業者が行う業務となっています。
「日本標準産業分類」では、
01 農業
が該当します。
参照:日本標準産業分類
外国人を雇用する会社(特定技能所属機関)に必要なこと
農業分野で「特定技能」ビザで外国人を雇用する「特定技能所属機関」にも求められることがあります。
1、直接雇用形態の場合、特定技能所属機関となる事業者は、労働者を一定期間以上雇用した経験があること。
2、労働者派遣形態の場合、次の要件を満たすこと。
・労働者派遣事業者は、農業現場の実情を把握しており特定技能外国人の受入れを適正かつ確実に遂行するために必要な能力を有していること。
・派遣先となる事業者は、労働者を一定期間以上雇用した経験がある者又は派遣先責任者講習等を受講した者を派遣先責任者とする者であること。
3、農業特定技能協議会(仮称) の構成員になること。
4、農業特定技能協議会に対し必要な協力を行うこと。
5、登録支援機関に1号特定技能外国人支援計画の実施を委託するに当たっては、農業特定技能協議会に対し必要な協力を行う登録支援機関に委託するこ と。
上記の事項について「特定技能所属機関」に条件が課されます。
ちなみに、ここで言われている「一定期間以上雇用」とは、労働者を少なくとも6か月以上継続して雇用した経験をいいます。
外国人の雇用形態について
農業分野における「特定技能」ビザの場合、「直接雇用」・「派遣形態での雇用」どちらも可能になります。
つまり、
・農業分野の事業者を特定技能所属機関とする直接雇用形態
・労働者派遣事業 者を特定技能所属機関として外国人材を農業分野の事業者に派遣する労働者派遣形態
いずれでも可能であるということです。
労働者派遣形態により受け入れる必要性について
労働者派遣形態によって外国人を受け入れる必要性については、
農業分野は
・冬場は農作業ができないなど、季節による作業の繁閑 があること。
・同じ地域であっても、作目による収穫や定植等の農作業のピーク時が異なるといった特性があること。
などによって、農繁期の労働力の確保や複数の産地間での労働力の融通といった農業現場のニーズに対応する必要があるため、農業分野の事業者による直接雇用形態に加えて、労働者派遣形態により「1号特定技能外国人」を受け入れることが 不可欠であると考えられているからです。
まとめ
今回は、農業分における「特定技能」ビザについて考えてきました。
農業分野は高齢化が進み人手不足が心配されています。
2019年4月からスタートする新しい在留資格「特定技能」がどのように人手不足解消の目的を達することができるのか、慎重にチェックをしていく必要があります。
今回の記事が皆様の参考になれば幸いです。
「特定技能」ビザについて解説した記事一覧は、以下の記事にまとめています。↓
・特定技能の在留資格について解説した記事一覧(まとめ)